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江口裕之の
(5)実朝暗殺の謎:その2
さて、前回の続きです。ヒロとユキは、1219年に起きた実朝暗殺事件の影に北条義時がいることを突き止めてきました。ですが、ヒロはどうも納得がいかないようです。いよいよ事件の真相に迫ります。



実朝暗殺の謎:その2

ユキ: 他に何か?
ヒロ: うん…。公暁は、実朝と一緒に北条義時の代理人だった源仲章も一緒に殺してるんだよね。
ユキ: 記述によるとそのようね。
ヒロ: 公暁は、実朝の隣の人物を誰だと思って一緒に暗殺したんだろうか?
ユキ: そりゃあ、北条義時だと思っていたはずよ。だって、式典の直前に入れ替わったんだから。え…、そうすると…。
ヒロ: そうなんだ。そこが不思議なんだよね。義時が事件を仕組んだとするなら、自分も暗殺するように公暁をそそのかしたことになる…。
ユキ: それは確かに変よね。じゃあ、首謀者は他に…。
ヒロ: さっきから気になっていたんだけど、和田一族が滅びたあと、三浦一族と北条一族の権力争いがあるって言ってたよね。北条義時が公暁をそそのかして源氏一族の滅亡を図ったのなら、北条一族に対抗する三浦義村は、公暁を殺さずに、事件背後の生き証人とて北条氏の陰謀を暴露したほうが良かったんじゃないかなあ。
ユキ: すると、事件には三浦義村も絡んでいるということ?
ヒロ: 北条氏と三浦氏の両方の立場から、お互いに消えて欲しいと思うような人物を考えてみようよ。北条義時が源氏の血を絶やそうと思ったなら、実朝と公暁、それに、最大の脅威である三浦義村だよね。三浦義村からすると、実朝は北条政子の実子だし、彼が将軍でいる間は北条氏の権力を奪うのは無理だ。実朝は消えて欲しい人物だろうね。
ユキ: 三浦義村からすると、北条義時も、もちろん消えて欲しい人物の一人よね。公暁はどうかしら。
ヒロ: よし、義村と公暁の関係を洗ってみよう。
ユキ: そうするわ。

(約2時間後)分かってきたわ。三浦義村の妻は公暁の乳母だったの。そうなると三浦義村は公暁の父親も同然ね。これなら、実朝が死んで、公暁が次の将軍となった場合、その執権には…。

ヒロ: そうだ。公暁にとっては、北条氏は親の仇とも思っていただろうから、当然、三浦氏を後ろ盾にするはずだよね。でも、どうして三浦義村は公暁を殺したんだろうか。
ユキ: 公暁の口を封ずるためだったとしたら?
ヒロ: なるほど。公暁をそそのかしたのが三浦義村だったとしよう。三浦義村は、公暁を利用して、実朝と北条義時の同時暗殺をもくろんだ。これは三浦義村によるクーデター事件ということになるね。一方、それを直前に察知した北条義時は自分の身代わりを…。
ユキ: 資料によると、公暁はこの暗殺の後、すぐに三浦邸に向かっているわ。そこで三浦の郎党に討たれているみたい。
ヒロ: 三浦義村は、公暁が実朝と北条義時を討ち取れば、三浦一族が後ろ盾して公暁を将軍にするという密約を公暁と交わしていたに違いないよ。それが、暗殺の直後、実朝と一緒に討たれたのが北条義時ではないことを知ってあわてて、公暁を殺して口を封じた。
ユキ: でも、それなら北条義時は、事件の首謀者が三浦義村であることを知っていたはずだわ。どうして三浦氏を放置したのかしら。
ヒロ: 北条義時は、この事件の後、何事もなかったように、三浦一族を追求せずに放任して様子を見ていたようだね。おそらく、北条氏には三浦氏を討つだけの実力がまだなかったのかも知れないし、三浦一族に「お前が謀反の張本人であることは知っているぞ」という無言の圧力をかけるためだったというあたりが真相じゃないかな。事実、三浦義村にはこの後ろめたさがあったため、北条一族がその後、権力基盤を固めていく過程にあまりちょっかいを出していない…。いわゆる「自発的謹慎」状態になったのかもね。北条氏からすると、これは偶然の「たなぼた」だったのかもしれない。
ユキ: そうすると、一番かわいそうだったのは、公暁ね。彼は、本当は純真で人を信じやすかった。それで、信じた人物に殺されて…。暗殺実行の後、すぐに三浦一族が迎えに来てくれるはずだったのに姿を現さないから、公暁の方から三浦邸まで駆けつけた。その時、自分を討ち取りに来たのは北条方と思っていたのかもね。彼は討ち取られる最後まで、自分の父親代わりともいえる三浦義村を信じていたかもしれない。
ヒロ: 資料によると、追っ手と奮戦しながら三浦邸を囲った塀を乗り越えようとしたところで討ち取られたそうだから、きっと最後の最後まで三浦義村を信じていたはずだよ。犯人が本当は被害者だったという話はいつの時代にもあるよね。公暁は三浦氏と北条氏の権力闘争の犠牲となったということだよ。南無阿弥陀仏…。
ユキ: そんなこと言っている場合じゃないわ。早く書類送検して三浦義村を逮捕しなくちゃ。
ヒロ: おいおい、こりゃ、800年も昔の話だよ。それに、三浦一族は1247年の宝治合戦で、北条方に滅ぼされてるんだぜ。
ユキ: 人を呪わば穴二つってことね。



さてさて、事件の真相は未だに分からないところもありますが、鎌倉時代の事件は背後に謎が多いので、ついつい入り込んでしまいますね。また、ヒロとユキの事件簿で他の事件を扱っていきます。お楽しみに。